中国の武漢で発生し、世界で感染が拡大している新型コロナウイルス感染症は、サッカー界にも大きな影響を及ぼしている。
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発生源とされる中国をはじめ、隣国のリーグやアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の延期はもちろん、感染者が発覚した国々も対策に追われている。
だが、大きな問題となるのはそこではない。
今、警鐘を鳴らすべきは、新型コロナウイルス感染症に伴う“東洋人嫌悪”の拡大だ。
人種差別が蔓延する欧州の各国リーグではさらに露骨である。
現在、4試合連続ゴールでトッテナムをけん引するソン・フンミンも、不愉快な状況に巻き込まれた。
2月3日(日本時間)のプレミアリーグ第25節マンチェスター・シティ戦でゴールを決めたソン・フンミンは、試合終了後にピッチ上で行われたインタビューの際、2回ほど乾いた咳をした。
するとそのとき、インタビュアーのイギリス『スカイスポーツ』記者が大げさに驚くジェスチャーをしただけでなく、映像のコメントでも「ソン・フンミンが咳をした」などと、新型コロナウイルス感染症を想起させるかのような内容が流れた。
またネット上では、インタビュー時にソン・フンミンの横にいた同僚のスティーブン・ベルフワインに向かって「冥福を祈る」といった度を超えた発言も寄せられた。
以前、韓国で感染者が発生したという速報が出た際には、ソン・フンミンと同じ写真にいるチームメイトにマスクが合成で加えられる画像がネットで上がったこともあった。
“東洋人嫌悪”の余波は、ソン・フンミンの同僚デレ・アリにまで広がりを見せている。
デレ・アリは2月9日、SNS上で東洋人とみられる男性を隠し撮りし、「僕を捕まえるなら、ウイルスはもっと早く動かないといけないね」とコメントを加えた動画を投稿した。いかにも東洋人が皆、新型コロナウイルス感染症患者であるかのように表現した。
その後、デレ・アリは当該動画を削除したが、動画はSNS上で瞬間的に広まり、ネットでは「デレ・アリの行為は容認できない」「中国人をバカにした」といった批判が飛び交った。
デレ・アリといった影響力の大きい有名なサッカー選手が上記のような投稿をしたことは、中国のみならず全世界のサッカーファンの失望につながる。
国際サッカー連盟(FIFA)をはじめ、イングランドサッカー協会など各国サッカー協会では人種差別行為を強く糾弾している。
デレ・アリには事態の推移に応じて、ペナルティが課せられるだろう。
そして欧州現地のスタジアムを訪れる東洋人のサッカーファンやメディア関係者にも、人種差別は及んでいる。
ロンドンで活動する本紙『スポーツソウル』の通信員をはじめ、ドイツのブンデスリーガやフランスのリーグ・アンなど、欧州4大リーグをまたにかけるメディア関係者らが、新型コロナウイルス感染症に伴う人種差別の実態を打ち明けている。
とある関係者は「ただ路上で携帯を触っていただけで、服で口を覆っている人がいた。欧州では韓国人や日本人、中国人など東洋人の区別が難しく、皆同じに見えてしまうようだ」と話した。
ついには東洋人の一般市民が暴力を受けたという報道もなされており、現地の韓国大使館では韓国人に対して身辺の安全を呼び掛けるなど、重苦しい緊張感が漂っている。
他でもなく、新型コロナウイルスの発生地とされる武漢を本拠地とする、中国スーパーリーグ所属の武漢卓爾足球倶楽部は窮地に追い込まれている状況だ。
武漢卓爾は新型コロナウイルス感染症が拡散される以前に、スペインで新シーズンへ向けたキャンプを早期に行う計画を立て、昨月にスペインのアンダルシア入りをした。
しかし、現地のクラブチームが武漢との練習試合を一斉にキャンセルしたことで、武漢卓爾は実戦感覚の欠如に悩まされている。加えて現地で宿泊するホテルで食堂を利用する際も、肩身の狭い思いを強いられている。
武漢卓爾を率いるスペイン人監督のホセ・ゴンザレス氏は、「選手たちは歩くウイルスではない」と、入国前の検査結果で症状がなかったことを強調した。しかし、彼らを取り巻く状況に改善はみられていない。
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