『愛の不時着』に『梨泰院クラス』『サイコだけど大丈夫』まで。Netflixが火をつけた韓国ドラマブームは、一向にその熱が冷める気配がない。
それと並行して各ドラマに主演した俳優たちも一気に知名度を高め、人気を博している。
ヒョンビン、パク・ソジュン、キム・スヒョンの3人は、いまや「Netflix韓流トリオ」と言っても過言ではない。
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彼らが劇中で見せるのは、心に傷を抱えながらも淡々と日々の暮らしを重ね、愛する人を命がけで守る「理想の男性像」だ。
心に訴えかける繊細な演技力と、優れたビジュアルでそれを具現化している彼らに、多くの人が心を奪われる。いわゆる「沼にハマった」人の中には、最新作から過去作をさかのぼるケースも少なくないようだ。
その人気ぶりを目の当たりにして、ふとした疑問が浮かび上がった。そもそも彼らはどうして俳優を目指すようになったのだろうか。また、どういう経緯でデビューに至ったのか。
3人とも容姿端麗ゆえにすんなりと俳優になったと思われがちだが、実はそれなりの逆境があった。
『愛の不時着』でエリート軍人役を見事に務めたヒョンビンは、子どもの頃から制服と男らしさに憧れて「警察大学に進学する」ことを夢見ていたという。
2011年の入隊直前、とあるトーク番組に出演した際は「もし俳優になれなかったら、対テロー作戦を担当する特殊部隊、“第707特殊任務大隊”に入ったことでしょう」と語ったほどだ。当時、芸能人としては珍しく自ら海兵隊に志願したのも十分頷ける。
そんなヒョンビンが俳優を志したのは高校生の時。先輩に勧められて入った演劇部で、芝居の魅力に目覚めたのだ。ヒョンビンが出演する公演はチケットが瞬く間に完売されたというから、人を惹きつける才能はすでに発揮されていたようだ。
しかし、彼の熱心な部活動を高校教師だった父が猛反対。ソウル大学出身や裁判官・検事の親戚が多い家系において、芸能人など言語道断と思われたのだろう。ヒョンビンは当時をこう振り返る。
「父に内緒で稽古に出かけたのがバレた時は、パンツ一丁のまま野球バットで叩かれました。その時、間違って膝にも当たってしまったんです。そのことに負い目を感じた父が、とある条件を出しました。僕がそれをクリアしてからは、黙って見守ってくれました」
その条件とは、「中央(チュンアン)大学演劇映画学科」に入学することだった。中央大学はいわゆる名門大学に分類され、なかでも1959年に開設された演劇映画学科は「韓国初の演劇教育機関」という歴史を誇る。同大学出身の俳優は数え切れないほどで、ハ・ジョンウ、パク・シネ、シン・セギョン、キム・スヒョン、チェ・ウシク、カン・ハヌル、チン・セヨンなどが挙げられる。
2003年、堂々と中央大学に現役進学したヒョンビン。時を同じくして以前からアプローチされていた芸能事務所と専属契約を結び、同年放送のドラマ『ボディーガード』で俳優デビューを果たした。
ちなみに同作でヒョンビンが演じたのはチャラいストーカーの脇役。しかも水着姿だったため一部では“黒歴史”ともされるが、最も若いヒョンビンが見られる貴重な作品には変わりない。
「Netflix韓流トリオ」中には、ヒョンビンの大学後輩が存在する。『サイコだけど大丈夫』のキム・スヒョンだ。
いまや場の空気を和ませるムードメーカーとして定評のあるキム・スヒョンだが、幼い頃は初対面の人と目を合わせられないほどシャイな性格だった。それを見かねた母が高校に入学したばかりのキム・スヒョンを半強制的に演技スクールに通わせたのが、人生の転機となる。
演技スクールでは延世(ヨンセ)大学の学生と親しくなり、高校生でありながら延世大学のサークル「劇芸術研究会」に特別会員として加入。演劇好きな大学生たちと寝食を共にしながら、演劇に明け暮れた。実は外部の人(しかも高校生)だったキム・スヒョンが公演に参加できるまで、サークル仲間の涙ぐむ努力があったという。
キム・スヒョンは2013年のコラムで「だから、もどかしかったです。僕もいずれここに所属したい。でも延世大学に演技学科は存在しないので、勉強の成績で入学するのは無理だろうな、と思ったんです」と綴っている。これだけでも、サークル活動がどれほど楽しかったかが感じ取れる。
彼らと一緒にシェイクスピアの喜劇『真夏の夜の夢』の舞台に立ち、妖精パック役を演じたキム・スヒョン。最終公演でのカーテンコールで覚えた一種の快感が、演技を生業にしたいと決心させた。
そしてある日、サークルのみんなで参加したドラマのオーディションで、キム・スヒョンの無造作な天然パーマに目を引かれた監督の気まぐれが彼をデビューに導く。デビュー作『キムチ・チーズ・スマイル』でキム・スヒョンが務めた水泳部員役は、彼の髪型からインスパイアされたキャラクターなのだ。
ちなみに『キムチ・チーズ・スマイル』の放送終了後、大学受験に挑戦した彼は4浪の末に中央大学演劇映画学科に合格。デビューしていたにもかかわらず特例入学という近道を選ばなかったことから、真っ直ぐな人柄が伺える。
そんなキム・スヒョンのアシストで、『梨泰院クラス』のパク・ソジュンがデビューできたのも興味深い。
パク・ソジュンは中学3年生の時、アニメのコスプレをして学園祭のステージに立ったことがきっかけで俳優を目指すようになった。
キム・スヒョンと同じく内向的な性格だったが、俳優になりたいという強い願望で親を説得し、学業と演技の勉強を両立。2007年に芸術大学の最高峰とされる、ソウル芸術大学演技学科に進学する。
ただ、自分より才能に満ちた大学の同期を見て挫折してしまった彼は、考えを整理するために入学した翌年の2008年7月、入隊した。
「軍隊に行ったら、むしろ俳優の道に強い確信が持てました。早くちゃんとした現場で、プロの人たちと作品を作りたかったです」
除隊後、心機一転して挑んだオーディションでは「俳優顔ではない」「ダサい」などの指摘も受けたが、それでも彼はゆっくり滲み出る自分の魅力を分かってもらおうと奮闘した。
そして友人の友人だったキム・スヒョンの紹介で、芸能事務所キーイーストの関係者とミーティングを行う。そこから契約までは一気に進んだそうだ。
パク・ソジュンの正式デビューは2011年に出演したB.A.Pヨングクの『I Remember』ミュージックビデオ。そして2012年のドラマ『ドリームハイ2』の魔性のアイドル役で本格的に俳優のキャリアをスタートさせた。
デビュー初期は作品に起用されて衣装の打ち合わせまで終えた段階で、出演が取り消されたこともあるとか。彼はそれでもめげずにボクシングや剣道、合気道、乗馬などを習いながら、幅広い役を務められるように地盤を固めていった。
多作である上に刑事(映画『悪のクロニクル』)やボクサー(ドラマ『「サム、マイウェイ~恋の一発逆転!~』)、格闘技チャンピオン(映画『ディヴァイン・フューリー/使者』)など、同年代の俳優の中でも際立ってキャラクターの振れ幅が広いのは、ひとえにパク・ソジュンの努力のたまものだろう。
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