北朝鮮の「金日成競技場」では10年以上、笑ったチームがいない。
北朝鮮サッカー協会は、来る10月15日に行われるカタールW杯アジア2次予選の韓国対北朝鮮の試合を当初公示した通り、平壌(ピョンヤン)の金日成競技場で開催する意思を伝えた。
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11~12年前のアジア3次予選やアジア最終予選のように、中国で南北対決が行われる可能性が消えたわけだ。これによってベント監督率いる韓国代表は、余計な変更を気にすることなく平壌遠征に集中できるようになった。
政治・社会的には、今回の試合に対する期待がかなり大きい。選手団はもちろん、記者団や応援団の構成などに応じて、しばらく停滞している南北交流が再開されるとの期待だ。
だがサッカーはスポーツだ。試合の主体はサッカー韓国代表であり、2020年秋から開催されるアジア最終予選に進出するためにも、平壌遠征では勝利が必要だろう。
韓国は決して油断できる立場ではない。というのも、金日成競技場で行われた男子サッカーAマッチでは10年以上、北朝鮮に勝ったチームがないからだ。平壌遠征は、まさに“地獄の遠征”といえる。
金日成競技場は単なる運動場ではなく、北朝鮮の歴史の1ページを飾る場所だろう。金日成がロシアから帰ってきて最初に演説をした場所ということから、1982年に「平壌運動場」から「金日成競技場」に名称が変わった。
韓国では、15万人を収容する綾羅島(ルンラド)の「メーデー・スタジアム(5月1日競技場)」が有名だが、サッカーの試合だけは金日成競技場が頻繁に利用される。“北朝鮮サッカーの聖地”といっても過言ではない。
何よりも、その場所で北朝鮮代表が記録した圧倒的な成績は、無視することができない。
そもそも北朝鮮は、アジアの舞台でもトップクラスのチームと見ることは難しい。良いときでアジア10位前後だろう。最近は競技力が落ちており、1月のアジアカップでは出場した24カ国で最下位だった。
しかし金日成競技場では、まったく異なる姿を見せる。
2009年南アフリカW杯アジア最終予選では、中東最強のサウジアラビアに1-0で勝ち、2011年ブラジルW杯2次予選では、アジア最高水準の日本を相手に1-0の勝利を収めた。また2015年には、ウズベキスタンを相手に前半だけで4ゴールをあげ、4-2と圧倒した。
今回のアジア2次予選でも同じだ。9月5日に行われたアジア2次予選・初戦では、レバノンを2-0で下している。1月のアジアカップでは、レバノンに1-4と惨敗したが、平壌では結果が違った。北朝鮮は終始相手を押し、2ゴールの差をつけた。
北朝鮮が金日成競技場で最後に敗れたのは、2005年3月、ドイツW杯アジア最終予選でイランに0-2で負けた試合まで遡る。その際、観客がグラウンドに乱入する騒動があり、北朝鮮サッカー協会が懲戒を受けるハプニングもあった。
つまり韓国代表は今回、北朝鮮の“金日成競技場14年間無敗記録”を破るために、奮闘しなければならない。
金日成競技場は、規模が圧倒的な大きな競技場ではない。収容人数4万人の中型スタジアムだ。しかし満員の観客が駆けつけた場合、アウェーで妙な雰囲気を伝えるという特徴を持っている。
陸上トラックが敷かれた総合運動場だが、韓国の蚕室(チャムシル)オリンピック主競技場や大邱(テグ)スタジアムのように、グラウンドが小さく見えるのではなく、グラウンドと観客席が近い競技場だ。
2017年に女子サッカーアジアカップ予選で、韓国の平壌遠征に同行した本紙取材陣の経験によると、圧縮された印象を受けるという。さらに観客がもれなく金や銀色の応援ツールを持って一糸乱れず応援歌を叫ぶため、相手チームはコミュニケーションが難しいと感じる。
北朝鮮選手たちの自信も侮れない。ホームでの北朝鮮代表のプレーは、より固く、積極的だ。日本もそんな北朝鮮の猪突猛進なサッカーに当惑してゴールを奪われた。
ワールドカップ予選を行う競技場としては珍しい“人工芝”も未知な点だろう。選手生活で人工芝にほとんど触れる機会がない韓国選手たちにとって、適応や怪我など複数のリスクをクリアしなければならない。
いずれにしても平壌で行われる南北対決は、グループHの序盤を占う試合になると思われる。
韓国は北朝鮮戦を前に、10月10日にホームでスリランカと対戦するが、大勝するだろう。去る9月10日のトルクメニスタン戦に続き、2連勝で平壌に行くと見られている。対する北朝鮮は、レバノンとスリランカを下して2勝したなかで、10月10日には試合がなく、韓国戦にだけ集中することができる。
グループHで無敗の両チームが対戦する可能性が高いわけだ。
はたして韓国代表は“地獄の平壌遠征”を乗り切ることができるか。ここで勝ち点3を得れば、カタールへの道が開ける。
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