テレビのローカル局やBSなどで繰り返し再放送されて日本で根強い人気を持つのが『トンイ』だ。『宮廷女官 チャングムの誓い』でよく知られるイ・ビョンフン監督の作品である。
【関連】激しい派閥闘争の中で、トンイはどんな役割を果たしたか
その主人公になっているトンイというのは、史実では淑嬪・崔氏(スクピン・チェシ)のことだ。
彼女は、19代王・粛宗(スクチョン)の側室だった女性で、後に粛宗の息子を産んでいる。それが、21代王の英祖(ヨンジョ)である。
『トンイ』が放送される以前、淑嬪・崔氏は歴史上でもあまり有名な人物ではなかった。むしろ、同時期に粛宗の寵愛を受けた張禧嬪(チャン・ヒビン)のほうが本当によく知られていた。
一介の女官から側室を経て王妃にまで上りつめ、その後に転落してしまった張禧嬪。彼女の人生は抜群のドラマ性を持っていたのだが、淑嬪・崔氏のほうは張禧嬪に代わって粛宗の寵愛を受けたとはいえ、目立つようなエピソードはなかった。
そんな地味な女性を主人公にした『トンイ』。主演のハン・ヒョジュも記者会見ではこう語っていた。
「撮影が始まる前、トンイについて調べたのですが、資料が本当になかったのです。インターネットを見ても、わずかしか出ていませんでした」
そう語るハン・ヒョジュも、実在の淑嬪・崔氏をイメージするのが本当に難しかったことだろう。
ただし、張禧嬪と比べて歴史的に知られていなかったとはいえ、実は重要な役割を果たしていた。
たとえば、粛宗の正室だった仁顕(イニョン)王后が1701年に亡くなったとき、張禧嬪が呪詛(じゅそ)していたことを粛宗に告発したのが淑嬪・崔氏だった。
さらに、21代王・英祖の母親として、息子を立派な王にするための教育にも熱心だったと伝えられている。
(文=康 熙奉/カン・ヒボン)
前へ
次へ