韓国tvNドラマ『サイコだけど大丈夫』が、“癒しのドラマ”として定着した。
大多数の中の1人でなければ異常になる社会、慌ただしく流れる忙しい現代人の日常の中で、「サイコだ」と言われても大丈夫だと慰めてくれる。それこそ、『サイコだけど大丈夫』がマニア層から支持され、視聴率以上の意味を持つ作品になった理由だ。
パク・シヌ監督のスタイリッシュな演出と脚本家チョ・ヨンによる個性的なシナリオ、それに俳優キム・スヒョン、ソ・イェジ、オ・ジョンセ、カン・ギドン、チャン・ヨンナムらの熱演がシナジー効果を発揮して「大人の童話」を完成させた。以下、脚本家のチョ・ヨンの一問一答。
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Q1. 全16話を完走した今のお気持ちを教えて下さい。
「作品にたくさんの関心と愛情を下さって本当に感謝しています。素晴らしい監督と俳優陣、スタッフの方々が、不十分な台本を溢れるほど満たしてくださいました。特にパク・シヌ監督を通じてたくさんのことを学ぶことができ、俳優たちの身の毛もよだつような好演を目の当たりにして、私も一視聴者として幸せな時間を過ごせました」
Q2. まさに『サイコだけど大丈夫』というタイトル自体が現代社会の人々に与える影響が大きかったです。どんなふうにこの作品が誕生したのか、企画の意図や趣旨が気になります。
「このドラマは、人格障害を持っていた男性との恋愛経験から出発しました。“認めること”や“受け入れること”が出来ず、偏見に満ちた視線と仲間外れを越して逃亡というサッドエンディングを迎えた、私の反省文みたいなドラマです。それで、私とは真逆のガンテ(演者キム・スヒョン)という堅実な人物を通じて、その時私が出来なかった“認めること”と“受け入れること”を見せたかったし、謝罪したかったです。“あなたは悪くなかった。だからどうかお幸せに…”と言いたかったんです。このドラマを執筆する間、誰よりも私が一番癒され、幸せを感じ、ガンテというキャラクターに感謝しました」
Q3.『サイコだけど大丈夫』という脚本はもちろん、感覚的な演出も加わってウェルメイド作品として好評を博しました。文章で表現し、頭で想像していた部分が、映像で表現された時の感覚は格別だったと思います。期待以上だと思ったシーンがあれば教えてください。
「監督はいつも私の想像以上の演出を見せてくれたし、「わぁ!すごい!」と感心しながら見たシーンが1つや2つではありませんでした。私は個人的に監督を演出の神様と呼んでいます。きらめくアイデアが溢れ、作品に対する解釈に優れ、キャラクターを見つめる愛情も人並み外れていて、いつも私を反省させ、その過程で私はたくさんのことを学びました。ガンテ(演者キム・スヒョン)、サンテ(演者オ・ジョンセ)、コ・ムニョン(演者ソ・イェジ)の3人がお互いに頼って成長したなら、私はシヌ監督を頼って成長したんじゃないかなと、1人で思っています。
演出力が光るシーンがとても多かったんですが、特にサンテ(演者オ・ジョンセ)がムニョン(演者ソ・イェジ)のサイン会にときめく気持ちで走っていくシーン、サンテだけの幸せな世界観でさまざまなものを見るシーン、カン・ピルオンおじさんのトラウマが発症し、バスの中が一瞬で戦争の恐怖に覆われるシーン、最終回で見せてくれたキャンピングカー旅行のモンタージュは本当に感嘆を禁じえませんでした。私は毎週、「今日は監督と俳優たちがどんな名シーンと神業のアドリブで驚かせてくれるかな」とわくわくしながらオンエアを楽しみにしていました。
味気ない文章に魂と生気を吹き込んでくれたのは、いつも監督と俳優たちでした。
そして第15話のエンディングシーンでガンテがムニョンにキスをしようとした決定的瞬間にエンディングをむかえたのは、すべて私の台本のせいです。視聴者の方々が監督に対して怒っているという話を聞いて、その日は両足を伸ばして眠れませんでした。うちの監督は無罪です。私が罪人です…」
Q4. 俳優たちの熱演も欠かせませんよね。ソ・イェジが演じるムニョン、オ・ジョンセが演じるサンテは「俳優人生の代表キャラクター」と言われるほどでした。俳優たちに特別に注文した部分があったのか、俳優たちの熱演についても一言お願いします。
「俳優たちに特別に注文した部分はありません。ガンテはキム・スヒョンじゃないガンテを想像することが出来ず、この人以外に似合う俳優がいるのかと思うほどでした。特に第9話のエンディングで何度も許しを請いながら嗚咽するシーンは、多分一生忘れられないと思います。書く時も本当につらいシーンでしたが、見る時はもっと苦しくて、しばらくパニックになるほど渾身の演技を見せてくれました。他にもとぼけたり、妖艶だったり、酔って駄々をこねたりと、自由自在に色を変えながら演技する姿を見て、脚本家に“書く楽しみ”を与える卓越した俳優だな、と感心しました。自分が演じるキャラクターを全体のバランスに合わせて強弱を調節しながら演じる姿に特に感動しました。
サンテは自閉症に対する誤解と偏見を植え付けないよう、懸念していました。自閉症の方々を先に“理解”して“近づこう”と真心を尽くすオ・ジョンセさんの姿を見ながら、個人的に人間オ・ジョンセを尊敬するようになりました。そのような過程を経てオ・ジョンセはサンテになり、サンテはまさにオ・ジョンセでした。台本のセリフを冷静に書いても、俳優さんたちが涙を流したりこみ上げたりするままに演技をしてくださり、私や監督もその意見を尊重することがあります。それで出来上がった最高のシーンが、「母の木」の前でサンテが自分の童話を読む最終話のシーンです。私もその場面を見てたくさん泣き、俳優さんの選択が本当に卓越していたと拍手を送りました。
ムニョンは、演じる側が特に気苦労の多いキャラクターでしたが、ソ・イェジさん特有のカリスマと愛らしさのギャップある魅力でキャラクターに生気を吹き込んでくれました。特に、キバノロを怒鳴るシーンとガンテに愛を告白するシーンは、ソ・イェジだからこそ可能だったのではないかと思います。彼女特有の低音がとても魅力的であるため、私も恋に落ちるところでした。ムニョンの最高のシーンは第6話のエンディングで母親の悪夢に押しつぶされながら呻いている途中、ガンテの胸の中で嗚咽するシーンを挙げたい。見ていて鳥肌が立ちました。本当に最高の演技でした。ソ・イェジさんの美しいビジュアルが注目を集めましたが、彼女の本当の魅力は低音の声に隠されたラブリーさだと思います」
Q5. 前作『ジャグラス~氷のボスに恋の魔法を~』(以下、ジャグラス)のために直接大手企業の取材をされていたとのことですが、『サイコだけど大丈夫』のために取材すべき部分がたくさんあったと思います。どんな部分が一番印象深かく、ドラマに反映させなければと思いましたか?
「今回、最も重きを置いて取材した対象は自閉症の姉や兄を持つ兄弟たちでした。彼らの率直な話と経験が書かれた手記が、劇中のエピソードを作るのに本当に役に立ちました。『私の最大の願いは兄に1人でも友だちが出来ること』『母は自分が死んだあと、兄の次の保護者が必要だから私を生んだんじゃないか』『私はいつも母の背中を見つめて寝ます。母は兄の背中を見つめて寝ます。いつも片想いをしているようです』など。一言一言が大きな響きで、そのすべての話をドラマの中に反映させたかったのですが、十分に盛り込むことが出来なかったのが残念でした。ぜひこのドラマがその方たちの迷惑にならないように…ただそれだけを気にしました」
Q6. 傷ついた人々、そしてその傷を一緒に癒していく人々など、『サイコだけど大丈夫』を見ながら共感し、癒された人も多いと思います。チョさんが最終的にドラマで伝えたかったメッセージは何でしょうか?
「いくら感情がない人でも“寂しさ”は感じるという文を読んだことがあります。寂しさを満たしてくれる温もりを求めて手探りするのが人間の本能ならば、寂しいから、癒されたくて、大人に成長したくて…それぞれの理由で温もりを求めて苦労して伸ばしてくるその手に、くれぐれも目を背けずに握ってくださるようにお願いします。韓国ドラマの主人公たちがお互いの温もりで癒され、成長していく姿を通じてそのメッセージを伝えたかったです」
Q7. 劇中で童話が重要な要素として使われましたが、どういう仕掛けだったのでしょうか?
「童話の中の内容は、ムニョンというキャラクターと深く連携しています。『お前は私だ』『お前は完璧な作品だ』『お母さんの言うことを聞けば良い子』『お前は怪物だから1人で生きないといけない』…。娘をもう1人の自分にしようとした母親の虐待のせいで、反社会的人格を持つようになってしまったムニョン。その子が世の中に向けて“助けてください”と叫ぶ声が、童話でした。
その表現方法が少し強く、残酷な童話に分類されたり、結局は販売禁止までされましたが、それは1人の子供の悲痛な叫びであり、間違った大人たちへの訴えでした。ムニョンというキャラクターを作る時から、この子の唯一の息抜きでありコミュニケーションの窓口として童話を活用しようと考えていました。ムニョンのような痛みを持つ者だけが童話の中に込められた本当のメッセージを発見し、自ら治癒していく方法を描きたかったのです」
Q8. チョさんが選ぶ名場面はどのシーンですか?その理由も教えてください。
「ガンテ(演者キム・スヒョン)、サンテ(演者オ・ジョンセ)、ムニョン(演者ソ・イェジ)が出てくるすべてのシーンが好きですが、その中でもガンテの夢の中で制服を着て登場するガンテとムニョンの甘いカップルと彼らの間に突然割り込むサラリーマンのサンテのシーン。『兄さん、僕あの子が好き』とムニョンに対する真心を夢の中で告白する弟の幸せな微笑みを見て、やっと『あぁ、私の弟が幸せなんだ…』と悟ったサンテが、他人であるムニョンまで家族として包容するシーンが一番好きです。
そして最高のロマンス名場面はやはり第4話のエンディング!大雨の中、バイクに乗ってかけつけ、服を脱いでムニョンに着せてあげるガンテの懐の大きさと、その温もりの中で微笑んだムニョンを一生忘れられません。監督と2人の俳優が作ってくれた最高のロマンスの名場面でした」
Q9. 劇中でコ・ムニョンの童話が実際に出版されたのも異例のケースだと思います。その感想も知りたいです。
「台本の第1話から4話を修正する過程で、パク・シヌ監督が『ゾンビの子』を劇中で少し紹介して終わらせるのではなく、出版してみてもいいのではないかと提案してくださいました。イラストを担当した作家のチャムサンさんが挿絵をとても素敵に描いてくれました。ドラマで一瞬触れるだけではとても惜しい絵でしたし、チャムサン作家のイラストだけでも十分価値があると思い、童話の本として出版されることになりました」
Q10. 最近、興味があるジャンルや、ドラマで表現してみたいテーマはありますか?
「私は面白いけど悲しくて、悲しいけど面白い話が好きです。おそらく次の作品はギャグを背中に負い、ヒューマンドラマに片足を入れたままロマンスを見つめるのではないかと思います」
Q11. 最後に視聴者に一言お願いします。
「『このドラマ…怖かった?』『いや…好きだった。好きだったんだ。私が』と言っていただけたら本当に光栄です。(ガンテとムニョンの第1話のエンディングのセリフをちょっと引用してみました)ありがとうございました」
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