韓国の財閥令嬢と、北朝鮮の将校のラブストーリーを描く韓国ドラマ『愛の不時着』。
一部では北朝鮮や北朝鮮の住民たちを「美化した」という論争も起きたが、韓国に定着した脱北者(朝鮮民主主義人民共和国から離脱した人)は、『愛の不時着』をどう見ていただろうか。
両江道(リャンガンどう)出身の脱北者ハン・ソンイ(27)は、「細かいディテールの描写がうまくて、私たち(脱北者)の間でも、これまでの“北朝鮮実写化”の中で最高峰だと評価されている」と笑う。
2013年に韓国入りし、チャンネルAの番組『これから会いにゆきます』の出演で顔が知られた彼女は、現在、YouTubeチャンネル『ハン・ソンイtv』を運営する“脱北ユーチューバー”として活動している。
「北朝鮮では実際にも電気の問題でよく列車が立ち止まったりするし、暖房設備がないのでストーブで冬を凌ぐ。韓国と比べればあまりにも劣っている。『愛の不時着』でそれをそのまま見せているので、“美化”だなんてとんでもない。あくまでもエンターテインメント作品だから、『ドラマはドラマ』と思ったほうがいい」
そんなハン・ソンイが、ドラマ『愛の不時着』に関する本紙のインタビューに応じた。
その全文は以下のとおり。
◇
―北朝鮮の現状を最も生き生きと描いたシーンを挙げるとしたら?
「リ・ジョンヒョクとユン・セリが、パスポートの写真を撮るため平壌行の列車に乗るも、電気の事情で列車が立ち止まるシーンだ。実際にも多々あることなので、どうしてあんなことまで知ってるんだろうと、共感しながら見た。北朝鮮では、地方から平壌まで行くのに1週間以上かかるのが一般的だ。実は韓国に来てから、決まった時間に電車が来るのを見てビックリした記憶がある。また、ドラマの序盤に、社宅村で停電するシーンがよく出たのも現実感があった」
―社宅村の主婦たちのファッションはどうだったか?
「完全に“北朝鮮スタイル”だ。特に、ヨンエ(演者キム・ジョンナン)がそっくりすぎる(笑)。人民班長ナ・ウォルスク(演者キム・ソニョン)は、まさに軍官の妻のお手本と言える。しっかり髪を結ばなきゃいけない。長髪やパーマは許されないので。
また、私が見るにソ・ダン(演者ソ・ジヘ)は、非常に洗練された平壌女性の姿だ。私が北朝鮮にいた頃、李雪主(リ・ソルジュ/金正恩の妻)のファッションがすごく流行っていた。それまでは女性が軍服に似た作業着を着ていたが、李雪主によってワンピースやブラウスなどが流行り始めた」
―ユン・セリを助けるため、リ・ジョンヒョクが道路で銃撃戦を繰り広げるシーンがあった。実際に可能なのか
「ドラマでは格好良かったが、実際にはあり得ない。現実は、警備中に弾丸を1つ失くしても緊急招集がかかるので、絶対だ。この部分は現実と違った。北朝鮮では実弾を使えず、ブランク弾を撃ちながら脅す。脱北の過程でも、脱北者の足が中国の国境に触れた瞬間から銃を撃てない。実弾が使えないのだ」
―第5中隊の4人が集まって、焼酎を飲むシーンがある。北朝鮮でも焼酎を飲むのか
「ドラマに出てきた焼酎は飲まない。北朝鮮は一般的にお酒は個人が作る。密造酒(許可を得ないで製造するお酒)だ。もちろん、各地方や平壌市内お酒の製造工場があって、『どんぐり酒』『太平酒』などが販売されている。
我が家も、母の自家製トウモロコシ酒を市場で売っていた。また、ドラマで出てきた貝焼きもよく食べたけど、貝殻を杯としては使わなかった。普通の杯を使う」
―北朝鮮では、日常的に宿泊検閲が行われるのか
「日常的だ。夜10時以降は外にいられない。外部からのゲストが来ると、人民班長に報告すべきだが、こっそり隠してあげると法的処罰が下される。主に『韓国ドラマを見ている』という通報があれば検閲が行われた。
検閲の対象は村全体だが、実はターゲットが決まっている。なので、ドラマのようにキムチウム(キムチを保存する蔵)に隠れることもある。やはり韓国のコンテンツを見ると最も厳しい処罰を受ける。ドラマ1本見たことに対して無期懲役、酷い場合は死刑になる。お金があれば5~10年の懲役刑だ」
―韓国も冬にキムチを漬ける風習がある。北朝鮮では、村人が集まって“キムチ戦闘”をしていた。
「ドラマのようにみんなで集まるわけではなく、個々人の家で作る。韓国と違うのは、白菜を海水で漬けること。そうすると味が良い。北朝鮮では塩の生産量が少ないので、塩を売って現金化するのが一般的だ。もちろん、地域ごとに独自のキムチ文化がある。北朝鮮は冬が長いからか、キムチを漬ける際に4人家族を基準に200~300キロは作る。
―北朝鮮に、ヒョンビンのような軍人は存在するだろうか。
「ドラマが最も嘘をついているのが、ヒョンビンが軍人ということだ。北朝鮮にあんな顔の軍人はいない(笑)。ピョ・チス(演者ヤン・ギョンウォン)、クム・ウンドン(演者タン・ジュンサン)はよくある感じだ。
北朝鮮では、全体的に顔がぽっちゃりした人をイケメンと言う。ただ、最近の若者の間では俳優イ・ミンホやヒョンビン、クォン・サンウのようなタイプが好みのようだ」(了)
韓国ドラマの視聴が発覚されると懲役刑となるものの、それでも北朝鮮の人々はこっそり韓国ドラマを見ている。
北朝鮮で接したG-DRAGONや少女時代、俳優イ・ミンホのファンだったというハン・ソンイは、「北朝鮮の人々にも『愛の不時着』を1日も早く見てほしい」と述べた。
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