「わざわざ日本から来てくださってありがとうございます。もっと早く取材に応じたかったのですが、春はアメリカにいましたし、韓国に戻ってからもテレビの収録や試合の解説などもあっていろいろと忙しく、なかなか時間が取れずすみません」
挨拶するなりそう言って出迎えてくれた朴セリ。さっそく近況について尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。
「いろんなことをやっていますよ。メジャー大会のテレビ解説者もやっていますし、テレビのバラエティ番組などにゲスト出演することもあります。ワインの輸入業者とコラボしてワイン事業もやっていますし、アパレル事業もやっていますが、やっぱり最も多いのはゴルフに関係する事業ですね。
例えば今は、フィリピンのゴルフ場設計にも携わっています。主にコース設計などを担当していますが、今後はアカデミー運営やジュニアの育成プログラムなども始めようと、いろいろと準備している最中なんです」
朴セリがジュニア育成にも乗り出していることは噂で聞いていた。
今年4月、朴セリはアメリカのオーガスタ・ナショナルCCで行われた第1回オーガスタ・ナショナル女子アマチュアに招かれ、アニカ・ソレンスタム、ロレーナ・オチョア、ナンシー・ロペスらとともにスペシャルゲストを務めたたが、彼女はその足でカリフォルニアに移動し、自身の名を冠したジュニア大会を開催していた。将来的には、ゴルフ財団の設立も検討しているらしい。
「単に韓国人ゴルファーの育成のためでなく、アジア全体の女子ゴルフを活性化させたいという思いがあるからです。フィリピンに行ったりするのも、そのためです。韓国だけではなく、日本、中国、東南アジアなど、アジア圏内で女子ゴルフをもっと盛り上げて、世界に通用する選手をアジアからたくさん輩出したい」
アジアの女子ゴルフを盛り上げたい。いきなり壮大な夢が飛び出したが、なんでも朴セリは現役時代からそんな思いを抱いていたという。
「私を通じてゴルフの夢を育み、実際にプロになって実現させてきた後輩たちが多いじゃないですか。彼女たちは“セリ・オンニ(韓国語で姉さんという意味)に憧れてゴルフを始めた”と言ってくれるけど、私にとっては彼女たちが“私の新しい夢”になったんですね。
ゴルフの先輩として、そんな彼女たちやそれに続く若い人たちのために何ができるだろうかと考えていくと、やりたいことがたくさん増えてしまったんです。例えばビジネスに乗り出したのは、“ゴルフ以外にもできることはある”ということを示したかったから。
それに長く選手生活を送ってきましたから、選手の成長過程で何が必要で、どんな環境を整えるべきか、何を改善しなければならないのかなど、自分なりの考えもあって、それをひとつずつ具体化していくために日夜勤しんでいます。
引退後の生活? 楽しいですよ(笑)。選手時代には知らなかったこともたくさん学び経験できていますから。選手時代がフロントナイン(前半9ホールのこと)だとすれば、今は人生のバックナイン(後半9ホール)が始まったばかりでしょうか。しかもゴルフでいえば、グリップの握り方から教わっている感じ(笑)。ただ、それもまた楽しいんですけどね」
人生のバックナインを始め、今はグリップの握り方から教わっている。いかにも引退した名選手らしい穏やかでユニークな表現だった。
そして、だからこそ気になったのはレジェンドの目に映る女子ゴルフの現在だ。韓国のこともさることながら、日本の女子ゴルフについて彼女が具体的に語った例が決して多くはないだけに、余計に気になった。
朴セリのロングインタビューはまだ始まったばかりだった。(つづく)
(文=慎 武宏)