イ・ボミが火をつけ、キム・ハヌルやアン・シネが続いたことで盛り上がる日本の韓国女子プロゴルフ人気。申ジエ、アン・ソンジュ、李知姫、全美貞など実力者たちも多く、今季も多くの韓国人選手が優勝するなど、日本のゴルフ・ファンたちは韓国女子ゴルフの層の厚さに驚くばかりである。
そんな韓国女子ゴルフの多士済々ぶりを取材しながら思い出すのは、Jリーグでプレーする韓国人選手が増加した1990年代後半だ。
その前まで日韓は文字通り“宿命のライバル”関係に過ぎなかったが、ホン・ミョンボ、ファン・ソンホン、ユ・サンチョルら多くの韓国人選手がJリーグにやってきたことで、日本のサッカーファンたちの韓国への理解は深まり、両国のサッカー交流は草の根レベルにまで及んだ。その良好な関係を物語ってくれるのが、朝日新聞と東亜日報が2002年ワールドカップ閉幕直後に共同実施した世論調査だろう。
「ワールドカップ共催で日韓関係は今よりも良い方向に進む」とした答えた人は、両国ともに79%もいたのだ。2002年ワールドカップ前年度は、歴史教科書問題や小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝などで政治的にぎくしゃくしていたが、サッカーが両国に関係改善ムードをもたらしていた。まさにスポーツのチカラだった。
そして、このサッカー・ワールドカップが終わると、今度は韓国から発信される熱に日本列島が包まれることになる。俗に言う韓流ブームである。
『冬のソナタ』とペ・ヨンジュンがもたらした韓流ブームに主婦層が沸き、その後にやってきた東方神起やKARAといったK-POP人気に、それまで韓国と縁遠かった10~20代の若い層も夢中になった。
2010年に朝日新聞と東亜日報が実施した共同調査でも、両国の良好関係が数字となって現われている。日本で「韓国を身近に感じる」と答えた人は55%。「日韓関係はこれから良い方向に進む」としたのも日本30%・韓国39%で、「悪い方向に進む」としたのは日本4%・韓国7%と、両国ともその未来を悲観視していなかった。
ところが、それから5年後に行なわれた二紙の共同世論調査でその数字は逆転。「韓国は嫌い」と答えた人は26%に増え、「日本が嫌い」と答えた人は50%。「この5年間で相手国へのイメージが悪くなった」と答えた人も日本が54%、韓国が59%と5割を超えるなど、両国関係は好転するどころか後退していることが明らかになったのだ。
そこには、両国の間に横たわる政治問題が大きく左右したのは言うまでもない。2011年8月の李明博大統領の独島上陸が引き金になって始まった両国の対立は、領土問題だけでなく歴史認識問題にまで発展し、過去最低と言えるまでに冷え込んだ。両国メディアでは感情的で扇動的な論調が先立ち、韓国では「反日」、日本では「嫌韓」という言葉が存在感を増すようになった。その異様な空気は今もまだ完全には払しょくされていない。
そんな重苦しい空気を打開させる可能性を秘めているのが、韓国女子ゴルフだと筆者は考えている。というのも、日本でも韓国同様に、ゴルフ・ファンは40代以上の男性が中心で、特に50~60代、さらには70代などが占めている。つまり、男性中高年層が多く、その多くがどちらかといえば保守的だ。
前出した「嫌韓」を煽る夕刊タブロイド紙や週刊誌などを好んで購読する層でもある。ただ、そんな保守層であるはずの中高年ゴルフ・ファンたちが、イ・ボミの人間性に惹かれ、アン・シネの愛嬌に注目し、キム・ハヌルや申ジエの技術と実力に感嘆しているのだ。彼女たちの活躍と存在によって、韓国に対する印象やイメージを改めた人々もいることだろう。
スポーツはときに、政治ができないことをやり遂げることがある。政治を動かすことはできなくとも、人の心を動かすことはできる。交流と理解を深めるきっかけを作ることができる。その媒介の役割を、イ・ボミら韓国女子ゴルファーたちを担う。韓国と日本の両方を知り尽くしている彼女たちが両国をつなぐ架け橋になったとき、両国の関係は今よりももっと良きものになっていることだろう。
ゴルフが切り開く日韓新時代。まさに今、そんな時代が幕を開けているのかもしれない。
(文=慎 武宏)
初出:『スポーツソウル』(2017年10月27日)