「試合終了後に(会見場を)開放することにしました。取材陣が大勢集まると予想されるので、それぞれの所属媒体と名刺を確認する作業を経て入場していただきます」
整列して待つ間、取材陣はモバイル機器を通じて試合の進行状況を覗きながらイチローを待った。
前述した通り、イチローは時計の針が翌日になる頃、記者会見場に姿を見せたが、会見は当初予定されていた15分を超え、午前1時20分まで行われた。
最後の試合に全力を傾けたイチローは疲れていたはずだが、彼は深夜まで自分を待ってくれた多くの取材陣を見て驚き、記者会見時間を大幅に増やしてくれたのだろう。
前日の第1戦に先発出場して4回で途中交代したとき、目頭を赤くしていたイチローの声はこの日も、普段は冷徹この上ない彼らしくないほど、震えているようでもあった。
「遅い時間に集まってくれてありがとう。皆さんの質問にできるだけすべて答えたい」といったイチロー。
現役引退の決心をした時点については、「東京ドームでプレーすることまで(1軍)契約になっていた。スプリングキャンプで思うような結果が出せなかったが、これを覆すことはできなかった」と虚心坦懐に語った。
「(今日の最後は)感激の瞬間だった。(引退を決めたことを)後悔するはずがない。日本のファンは表現するのが下手だと感じたが、固定観念が覆された」と、最後まで惜しんでくれたファンたちの声援と愛情に感謝した。
日本で9年、アメリカで19年の計28年、現役生活を続けられたことについては「ただ野球を愛していた。これは一度も変わったことがなかった」と、過ぎ去った歳月を一つひとつ辿るように語った。
いろんなことを話すなか、イチローは「今、僕はおかしいことを言っていますか?」と照れくさそうに笑った。深夜の記者会見は、ティータイムのようにリラックスした雰囲気が長らく続いた。
イチローにとっては最後の試合だっただけに、至るところで切実さが感じられた。
7回、三番目の打席で三振したときには残念がった。4-4の同点だった8回裏2死2塁の現役最後の打席。6球目にショートゴロを打って一塁まで全力疾走したが、僅差でアウトになった。
東京ドームを埋め尽くした大観衆はもちろん、日本の記者たちも惜しいとため息をついた。9回の守備についてからすぐ交代サインをもらい、ダッグアウトに向かったイチロー。
イチローがファンに最後の拍手を受けられるようにしたサービス監督の配慮だったのだろう。マリナーズ、アスレチックスの選手たちも一斉にダッグアウトに出て、イチローに拍手を送った。一部の日本記者は「ありがとう!! イチロー!!」と叫びながら涙を見せたりもした。
メジャーリーグ通算2653試合で打率0.311、3089安打、117本塁打、780打点、1420得点、509盗塁を記録した伝説のプレーヤーは、帽子を脱いでファンに挨拶した後、仲間一人ひとりと熱く抱擁をした。
この日、イチローは4打数無安打だったが、むしろ相手が真っ向からイチローと勝負して、最後まで彼のプライドを守り尊重したことも印象的だった。